2009年3月30日月曜日

プロペラ機での取材旅行


3月は出張が多かった。その中で、最も楽しかったのは、36人乗りのプロペラ機SAAB 340Bでのフライトだった。兵庫県北部にあるコウノトリ但馬空港から大阪伊丹空港までのわずか40分のフライトだったが、久しぶりにのんびりした旅だった。

プロペラ機の良いところは、低空を飛ぶので、地上がよく見えること。頭の中に日本地図をイメージすると、今どこを飛んでいるのか、よくわかる。船や電車やジャンボ機での旅とは、ひと味違った時間を過ごすことができる。

20日からの3連休は、大阪で開催された循環器学会の取材。仕事の明き時間には、自分の病気に関するセッションを聞いていた。年々、不整脈の薬物治療やアブレーションのセッションが増えているように思う。

仕事柄、さまざまな医学学会を取材しているが、そこで共通して感じることは、プライマリーケアとかなり隔たりがあることだ。 確かに基礎的な研究や高度医療への取り組みは重要である。しかしそれ以上に、プライマリケアは大切だと思う。

プライマリケアを軽視すると、心臓の病気は分かるけど、消化器の病気は分からない医者。特定の臓器の疾患には詳しいが、全身状態を診れない医者が増えてくる。 そして、心臓の病気は治ったが、その患者は死んでしまった、ということがおこる。

ジョークではない。実際、抗癌剤治療の成績を聞いていると、癌細胞は小さくなったが、その患者は死んでいるという報告があるからだ。

2009年3月16日月曜日

57歳の誕生日に思ったこと



 昨日は誕生日。57歳になった。振り返ると、50歳代はずっと病を抱えていた。平成15年の11月に京都で倒れ、心房細動に伴う血行動態の悪化から多臓器不全になったのは51歳の初冬。それ以来、1年に数回の入院を繰り返し、未だに寛解しない。

 多臓器不全で入院するまでは、ほとんど病気をしなかった。入院したのは鼡径ヘルニアの手術をした幼児の時だけ。健康にはかなり自信があった。それだけに、出口の見えない病を抱えた生活は、当初、かなり苦痛だった。

 最も苦労したのは、体調が急変して緊急入院しなくてはならなくなった時のスケジュール調整だ。抱えている仕事をスタッフに振り分けたり、キャンセルすることは、かなりのストレスだった。

 しかし、何回か体調の急変に伴うスケジュール調整を経験するうちに、いつ急変しても何とかなるやり方が身に付いてきた。例えば、それまで自分一人で抱えていた仕事を何人かのスタッフに分散して任せることで、自分にしかできない経営業務をできるだけ少なくした。取材や原稿を任せられる外部スタッフも増えた。最も大きなことは「断る勇気」がついたことだ。

 それまで、頼まれた仕事はけっして断らないことをモットーにしてきた。その結果、いつもオーバーワークになり、ちょっとでも予定が狂うと、周りに迷惑をかけてきた。今から考えると、仕事を断ることが怖かったのである。しかし、ぎりぎりのスケジュールで目一杯仕事を抱えていると、体調の急変時に対応できなくなる。そこで、常に一定の余裕をもって仕事を受けるようにした。当然、断る仕事も増えるが、土壇場でキャンセルする仕事は少なくなった。

 今でも、体調の急変に落ち込むことはある。確かな治療方法がみつからないことに不安になることもある。しかし、悩んでいても何の解決にもならない。それなら、病を抱えた生活をいかに楽しむか、それを考えるのがこれからの人生。そんなことを57歳の誕生日に思った。誰にも明日のことは分からない。しかし、人は最後に必ず「死ぬ」のだから。 

2009年3月14日土曜日

ミステリー 2冊


 今週はミステリーを2冊読んだ。湊かなえ著『告白』(双葉社刊)と柚月裕子著『臨床真理』(宝島社刊)である。前者は第29回小説推理新人賞を受賞した『聖職者』を第1章として、書き下ろしなどを加えた長編で「週刊文春ミステリーベストテン」の第1位にランクインしている。後者は、第7回「このミステリーがすごい!」大賞の受賞作だ。

 『告白』を読み始めた時、そのモノローグ的文体に違和感があったが、第一章の「聖職者」はテンポと展開が見事で、実に面白かった。しかし、第二章以降にはミステリーとしての面白さはあまりなく、特に最終章の「伝道者」は無い方が良いと思われた。この文体では、著者の構成力と文章力が分からないので、第2作目の長編『少女』(早川書房刊)も読んでみたいと思っている。

 『臨床真理』は、テーマに興味があったので購入。書き出しのテンポは良く、序盤はスリリングなので一気に読めるが、途中で事件の真相が分かってしまう。そして、その予想通りに後半は展開していく。良い意味で、読者を裏切る「驚き」は無い。さらに、登場人物の言動にリアリティが欠けており、「ああいう行動をする人が、こんなことは言わない!」と感じる個所がある。展開が強引な個所もある。しかし、著者の眼差しには共感できる。眼差しに筆が追いつけば、良い作家になれる。そんな気がする。