2008年6月4日水曜日
人間は血管から老いる
“人間は血管から老いる”といわれるように、血管は加齢と共に老化していく。血管が弾力性を失って、堅く脆くなった状態が動脈硬化である。血管は単に血液を全身に送る管ではなく、さまざまな働きをする大きな臓器で、その働きが衰えると血管が支える心臓、脳、腎臓、筋肉なども衰えていく。
加齢によって硬くなった血管は、高血圧や糖尿病などのストレスで容易に傷がつく。その傷に脂肪などのカス(プラーク)がたまると、血管は細くなり、十分な血流を臓器に送れなくなる。例えば、足の太い血管が詰まって細くなると、歩くと足に痛みを感じるようになる。普通、足が痛むと整形外科を受診する人が多い。しかし、治療を受けてもなかなか良くならない場合は、循環器内科や血管外科を受診する方がいい。特に、少し休むと歩行時の痛みが軽減する場合は、足の血管が詰まっている可能性が高い。同様に、心臓の血管が細くなると、十分な血液が心臓にいきわたらないので、歩行などの労作時に息苦しさを感じるようになる。これが狭心症である。
血管にたまった脂肪などのカス(プラーク)が崩れると血管が完全に詰まることがある。心臓の血管が詰まると心筋梗塞に、脳の血管が詰まると脳梗塞になる。
脳梗塞の原因の1つとして、最近注目されているのが、首の両側にある頸動脈にプラークができる病気だ。心臓から送り出された血液は、首の頸動脈を通って脳に至るが、その頸動脈にプラークができて細くなったり、そのプラークが崩れて血管が完全に詰まると脳梗塞の原因となる。
この病気は、「手で掴んだ物がポトリと落ちる」といった軽い運動障害や、「口がよく回らない」といった軽い言語障害などで発見されることもあるが、片側の眼が急に見えなくなって、数分で良くなる場合も頸動脈が詰まっている可能性が高い。
治療法は、血液をさらさらさせる薬(アスピリンなどの血小板凝集抑制剤)による治療と頸動脈を外側から切り開いてプラークのある部分を取り除く手術。さらに、狭くなった頸動脈に金属製の網状の筒(ステント)をいれる手術「頸動脈ステント留置術」がある(上の写真参照)。
「頸動脈ステント留置術」は、足の付け根(大腿動脈)から細い管(カテーテル)を入れて治療するので、全身麻酔の必要もなく、40分程で終了し、入院期間も数日から1週間と短い。全身へのストレスが少ないため、高齢者や心臓病などをもった人には、最適な方法だといわれている。
しかし今まで、頸動脈にステントを入れる手術には大きな問題があった。それは保険で治療が受けられなかったことである。心臓の血管や足の血管にステントを入れて治療することは、既に保険でできる。しかし、頸動脈や脳の血管にステントを入れる治療には、保険がきかなかったのである。
しかし、2008年の4月から頸動脈にステントを入れる治療も保険でできるようになった。
そこで早速、その手術現場を見学に行った。その様子は次回報告する。
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2 件のコメント:
循環器、血管治療の最前線を取材されているのですね。血管が詰まるとどういうことになるか、知っているだけに、お話を読んでいるだけで背筋が寒くなるというか・・・。ところでステント治療に必須の「パナルジン」の副作用問題はどうなったのですか? 薬剤の先端情報も知りたいです。
確かに、パナルジン(塩酸チクロピジン)は、作用が強い反面、血栓性血小板減少性紫斑病、無顆粒球症、重篤な肝障害などの副作用が問題となっていますね。副作用による死亡例も報告されています。そこで、厚生労働省は 1999年と2002年に緊急安全性情報で警告を発し「治療開始後2カ月間は、2週間ごとに白血球算定と肝機能検査を行い、原則として1回2週間分までの投与とする」といった制限を設けています。
一方、パナルジンと同様の作用・効果をもち、より安全性が高いというわれるプラビックス(硫酸クロピドグレル)という抗血小板薬が2006年から使えるようになっています。
このプラビックスは、海外や国内の臨床試験で、パナルジンに比べて、肝障害や好中球減少などの副作用が非常に少ないことが確認されています。
しかし現在、この薬が使えるのは、
1、虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)後の再発抑制
2、経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される急性冠症候群(不安定狭心症、非ST 上昇心筋梗塞)、となっています。しかし、近い将来、パナルジンと同じように、慢性動脈閉塞症などの広い循環器領域に適応が拡大され、抗血小板薬として広く使用されていく、といわれています。
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