2008年3月31日月曜日
循環器学会の取材
先週木曜日から、循環器学会の取材で博多に来ている。初日と昨夜は雨が降って、東京より寒かったが、晴れると汗ばむくらい暑い。
例によって、出発前に羽田の書店で文庫本と新書を購入。
村上 龍著 『すべての男は消耗品である』;角川文庫
エリック・ゼムール著 『女になりたがる男たち』;新潮新書
和田静香著 『プロ患者学入門』;扶桑社文庫
松岡大悟著 『焼き肉のことばかり考えている人が 考えていること』扶桑社文庫
さっそく、『女になりたがる男たち』を読んだ。著者はフランスの日刊紙「フィガロ」の政治担当記者。フェミニズムによって「男性性」が喪失し、さまざまな社会問題が起こっている、と主張する本書は、フランスで大論争になった問題の書である。
学会では、突然死に対する市民の救命活動や現在社会問題になっている医師の過重労働に関するセッションもあったので、いずれ、紹介したいと思っている。
2008年3月24日月曜日
私の心臓の話 その3
▲私の心臓は、このペースメーカーで動いている:写真は模型
既に記したように、WPW & 心房細動によって急性心不全をおこし、それに続く多臓器不全から回復した後も、心臓の動きには悩まされた。当初は頻脈発作に悩んでいたが、そのうち徐脈の悩みが加わった。心臓の動きが早くなったり遅くなったりするのだ。
頻脈発作がが起こると、ほとんど自然に治ることは期待できない。そこで、1~2か月かけて仕事をセーブし、数ヶ月先の予定はキャンセルして、入院治療の準備をした。そのうち、徐脈が加わると、それまで頻脈の予防に使っていた薬も飲めなくなり、徐脈の回数は増えた。さらに徐脈によって夜中に突然苦しくて目が覚め、昼間でも脈拍の間隔が開くとボッーとして倒れそうになることもあった。また、運動に伴って脈拍数が増えないので、歩くと足の筋肉が酸欠で悲鳴を上げた。そんな時、前述したように、電気的除細動をかけた時に十数秒の心停止が起こった。
主治医は、すぐにでもペースメーカーの埋め込み手術を行うことを勧めた。しかし、私はすぐには納得できなかった。体内に異物を入れることにも抵抗感があったが、それ以上に、他の治療法で何とかならないものだろうかと思った。
そこで、文献を読んだり、セカンドオピニオンに相談したり、東洋的治療に頼ったりした。しかし、徐脈は徐々に悪化し、日常生活にも支障がでるようになった。
最終的に、ペースメーカーの埋め込み手術を決心したのは、一人に患者との出会いである。ちょうど、2年前の梅雨時、その年3回目になる電気的除細動のために入院していた時に、その患者と出会った。
6人部屋に入院していた私のもとに、毎日のように主治医と看護婦が、ペースメーカーの必要性を説きに来る。しかし、私は納得できるまで待ってくれ、いったん退院したい、と繰り返していた。そんな会話を聞いた同部屋に入院していた60歳ぐらいの男性が、ある日、私のベットサイドに来た。彼も同様の病気でペースメーカーを2年前に入れたという。そして、「まだまだ仕事が頑張れる歳だからこそ、ペースメーカーを入れた方がいい」と話し始めた。日常生活には何の不便もない、その上、身体障害者1級に認定されるから、さまざまな恩恵も受けらられる。なにしろ、QOL(生活の質)は格段に良くなる。私が保障する、と言う。彼も実際にペースメーカーを入れる時には悩んだ、とも語った。
彼との出会いが、彼の話が、頑なにペースメーカーを拒否していた私の気持ちを徐々にほぐしていった。特に、彼が私の手をもって、皮膚の下に埋め込まれたペースメーカにそっと触れさせてくれた瞬間、何かすごく温かいものを感じた。私がペースメーカーを入れることを決心したのは、それから3日後のことである。
2008年3月23日日曜日
デスクワークのアウトプットを如何に増やすか
▲札幌へ出張。老舗「だるま」のジンギスカン。
電車や飛行機に乗っている時は、読書に集中できるので、出張する時には、いつも文庫本と新書を1冊ずつ持っていく。その上、時間があると、駅や飛行場の本屋に立ち寄って、新たに文庫本や新書を買うこともある。
吉越浩一郎著『デッドライン仕事術』(祥伝社新書)も、羽田の第2ターミナルにある本屋で購入した1冊だ。
基本的に、HOW-To的ビジネス書は、ほとんど読まないが、この『デッドライン仕事術』は、「すべての仕事に締切日を入れよ」というサブタイトルが気になって購入した。
さっそく機内で読み始めたが、「はじめに」を読み進めるうちに、かなり内容がしっかりしているという印象をもった。実践的であり、指摘がかなりリアルである。たぶん、代表取締役としての著者のリーダー体験が裏付けになっているからであろう。
本書のテーマは「ホワイトカラーの生産性をいかに上げるか」ということだが、その方法論がかなり具体的で、日本のHOW-To的ビジネス書に多い精神論や人間関係論に、全く触れていない点も好感をもった。よく、「それは、あなただから、できたんでしょ!」と思える、全く客観性のない単なる思い込みや、「それができれば、悩みはしないよ!」、「こんな本を書いてないで、あんたが起業しなよ!」と、つい声を出したくなるような実現不可能なアイディアを展開しただけのHOW-To的ビジネス書が多い中にあって、本書は出色の1冊といえる。
そこで、その内容の1部である「仕事のアウトプットを増やす」方法論を紹介する。
一般的に、デスクワークのアウトプットを規定する要因は、【能力】、【時間】、【効率】であり、このうち、【能力と時間】が特に重視され、【効率】は能力の1つとも考えられていることが多い。
能力の高い人は短時間に効率よく仕事をこなすが、能力の低い人は、その分、長時間労働が求められる。
私の会社の職種を例にとると、一定以上の能力があるライター、編集者、デザイナー達が業務時間(8時間)内にこなせる仕事でも、新人はその数倍の時間を要し、それでも、使い物にならない(商品にならない)場合も多い。
この場合は、【能力】の差である。一方、【能力】が同じ場合には、【労働時間】を増やせば、仕事のアウトプットは増える。その意味で、能力が一定以上のスタッフを長時間働かせれば、それだけ大量の仕事をこなせることになる。現在、能力主義+年俸契約で働く多くの会社員が、このパラダイムの中に迷い込んでいる。
しかし、労働時間は限られている。寝る時間以外は全て労働時間としても、限界があり、そんな生活は生活とはいえない。「労働のための人生ではなく、人生を楽しむための労働である」。その意味で、私は「仕事に生きがいを感じる」という人間には疑問をもっているのだが、その点は、改めて論じることにする。
さて、【能力】と【時間】が一定の場合、いかに仕事のアウトプットを増やすか。これが本書の1つのテーマである。 著者は、【能力と時間】が一定でも【効率】を高めることで、アウトプットを増やすことができる、と指摘する。そして、【時間】を固定すると【効率】は必然的に上がる、と断言する。
【時間を固定する】とは、1つ1つの仕事に、明確でシビアーな【締切】を設定することである。 考えてみると、スタッフに仕事を任せる時、「できるだけ早く」とか「来週の初め頃までに」、といって頼むことが多い。これではダメだという。スタッフが「3日かかる」といった場合、その根拠を具体的に聞いて、論理的な【締切日】を提示することがリーダーの役割だという。
たぶん、その締切日はスタッフにとっては厳しいものであろう。厳しいからこそ、スタッフは仕事の効率を考えるようになり、その結果、能力も向上する。
しかし一方で、時間に追われると、手抜きやミスが増えてクオリティが落ちるのではないか、と心配になる。「だが、やってみればそんなことはない」と著者は言う。そしてこう指摘する。「目の前の作業に集中して取り組むようになるから、かえってミスは減る。そもそも、仕事のクオリティというのは本人の【能力】によって決まるものであって、【効率】に左右されるものではない」と。
2008年3月18日火曜日
1945年3月26日
この美しい慶良間諸島の海域が、1500隻の軍艦で埋め尽くされたことがある。
沖縄本島を攻撃する米国海軍の艦船が、この海域に集結した時だ。
1945年 3月26日。慶良間列島に上陸した米軍は、4月1日に1500隻近い艦船と延べ約54万人の兵員をもって沖縄本島に上陸を開始した。
ここから約3~5ヶ月にわたる地元住民を巻き込んだ沖縄での過酷な地上戦が始まったのである。⇒資料
その日のことを、島の”おばー”は、こう表現した。
「まるで、因幡の白ウサギ、さー」。
艦船の上を歩けば、隣の島にいけるほど、海は軍艦で埋め尽くされた。幸運なことに、日本兵がほとんどいなかった阿嘉島では、悲惨な住民自決は起こらなかったという。
今、慶良間諸島の海域は、静かで美しい。
しかし、今でも沖縄の人々の犠牲の上に、私たちの生活が成り立っていることは事実である。
遠ざかる島。フェリーは沖縄本島の泊港へ。
久しぶりの休暇が終わった。
慶良間列島の阿嘉島へ
2008年3月17日月曜日
うつ病を見逃さないために
近年、本邦における自殺者数は年間3万人を超えており、その多くが、うつ病を病んでいたといわれている。
「うつは心の風邪」といわれているが、重症化すると、風邪のように簡単に治る病ではない。実際、私の周囲にも、数年にわたってうつ病で苦しんでいる人がいる。重症化しないためには、早期に的確な治療を開始することが重要だが、うつ病の早期には、自分も周りの人も、なかなか気がつかないことが多い。
そこで、Nikkei Medical ONLINEに載っていた「うつを見逃さない」という記事を紹介する。
このサイトは、医者向けの専門サイトだが、この記事は平易にうつ病の症状が解説されており、私たちにも十分参考となる内容である。しかし、医者の専門サイトで、誰でも読めるわけではないので、その全てを引用した。
著者は保坂隆氏=精神科医;東海大学医学部教授である。
なお、最近の研究で不眠が続くとかなりの確率でうつ病になることが分かってきた。従って、日中の生活に支障がでるような不眠の場合は、専門の、たとえば「不眠外来」などを受診する方がよい、といわれている。
■以下、全て引用記事ですが、【カッコ】内の記述は、私の注です■
ストレスを受けると、脳や身体各部に様々な影響が出てくる。しかし、これらの変化の多くは目に見えないため、周囲の人間には分からないし、自分自身も認知できていないことが少なくない。
そこで今回は、自分のストレス状態を自分自身が認知するために、またストレス状態にある職場の同僚に気付くことができるように、ストレスをいくつかの段階に分け、各段階で起こる「外側から見える」変化について説明していく。
(1)「過剰適応」段階;【むしろ元気な感じになる】
最も軽症のストレス状態では、すぐに元気がなくなるのではなく、むしろ元気な感じになる。
何かストレスがあっても、普通以上にきちんと適応できているかのように見える。この状態を「過剰適応」と呼ぶ。この時点では、本人はストレッサーに曝されていることに全く気付いていないことが多い。
過剰適応が問題なのは、本人が無理をして適応しているため、いつかは適応のためのエネルギーが枯渇して、ストレス状態が次の段階に進んでしまったり、身体的な病気(心身症)になったりする可能性が高いからである。
過剰適応は色々なきっかけで生ずるが、例えば、仕事を始めたばかりの研修医【新入社員】や、異動したり勤務地が変更になったばかりの医師【会社員】によく見られる。具体的には、新しい環境に早く慣れようとして、遅くまで仕事をしたり、ミーティングなどでも積極的に発言するなどの行動が観察される。
もっとも、この過剰適応は、真面目な医師が「新しい職場で頑張ろう」という気持ちが強いときに表れる行動パターンであり、適応のためには、むしろ必要な段階であるとも言える。
(2)「神経過敏」段階;【イライラして怒りっぽくなる。悪酔いしやすくなる】
過剰適応の段階を過ぎると、精神的に過敏になり、イライラしたり、怒りっぽくなったりする。
見た目にも疲れが見え始め、タバコの本数が増えたり、些細な刺激にも過敏に反応したりする。同僚と口論やけんかをしてしまったり、後輩をいじめたり、上司に対しても口答えするようになり、さらに悪くなると、看護師【家族】に当たり散らしたり、患者や患者家族【お客さん】とのトラブルに発展する場合もある。これが神経過敏の段階である。
神経過敏は、私生活にも影を落とす。自分の家族や恋人、友人とも、ちょっとしたことでけんかしてしまうことが多くなってくる。
この時期の、もう一つの客観的指標は「酒の飲み方」である。しばしば見受けるのは、酒を飲みながら職場や仕事について愚痴ってみたり、上司や同僚の悪口を言っている場面である。また、一緒に飲んでいる同僚や友人にからんだり、喧嘩をしてしまったりもすることもある。「最近、悪酔いしやすくなった」という人は要注意である。
(3)「無関心」段階;【周囲の人たちや仕事に対して無関心になる】
さらに悪化すると、いよいよ周囲に対して関心がなくなる段階に入っていく。
それまで一生懸命がんばってきたのとは正反対の状態で、仕事への積極性もなくなってしまう。さらに、積極性や生き生きした感じが失われるだけでなく、仕事中も「うわの空」のように見えるようになる。その結果、つまらぬミスをしてしまい、それが大きな医療ミスの原因になる場合もある。そのことについて、上司から注意されたり、叱られても、特別に罪悪感を感ずることもなくなってしまう。
しかし、無関心だからといっても、これは「抑うつ的」とは違う。抑うつ状態のように、悲しいわけでも、憂うつなわけでもなく、心身が消耗した感じで「何も感じない」状態なのである。
この無関心段階では、休憩時間や自宅に戻ってからも、何かを積極的にすることはない。その代わりに、雑誌やネットで「求人広告欄」をボンヤリ眺めていたりする。とはいえ、この段階の人は、現在の仕事をやめて新しい職場を積極的に探しているわけでない。そんなエネルギーは、もうこの段階ではなくなっているのである。
「ただ、なんとなく」というのが、この段階には一番ピッタリくる表現である。
(4)「引きこもり」段階;【遅刻が多くなる】
無関心段階を過ぎると、さらに周囲との接触を避けるようになる。
具体的には、遅刻が多くなってくる。また、「神経過敏」の段階のように、外で同僚や友人と酒を飲んでウサ晴らしをするわけではなく、家で独りで飲酒するようになり、その結果、二日酔いの状態で出勤することも少なくない。医師の6人に1人はアルコール性肝障害と言われるが、このような段階に達している医師が多いのかもしれない。
(5)「抑うつ」段階;【集中力がなくなり、忘れっぽくなる】
引きこもりを超えると、次は「抑うつ」段階である。この段階では、憂うつ、寂しい、悲しい、つまらない、といった抑うつ気分を本人もはっきりと自覚し、言葉にすることもできる。また「集中力がない」とか「頭が働かない」というような精神機能の低下や、「忘れっぽくなった」という知的機能の低下も見られるようになってくる。
さらに「何も手につかない」とか「何をするのもおっくうだ」といった具合に、運動性の抑制も見られるようになる。これらの症状が、朝や午前中に特にひどいという、「日内変動」【午前中、特にひどくて、夕方になると少し元気になる】も見られることがある。このように、この時期には、いわゆる「うつ病」の患者と全く同じ症状が認められるようになる。
この「抑うつ」段階も、精神症状を自覚できれば、評価や診断はそれほど難しいことではないが、精神症状がほとんどないこともある。例えば、不眠、食欲不振、体重減少といった身体症状だけしか認められない場合である。身体症状は、頭重感、頭痛、肩凝り、腰痛といった症状のこともあるし、下痢や便秘ということもある。このように、抑うつ感がないか、あってもごく軽度で、その代わりに身体症状だけが目立つうつ病を「仮面うつ病」という。
(6)「行動化」段階;【無断欠席、衝動的な退職・転職】
この「抑うつ」段階が続くと、最終的には様々な「行動化」が見られるようになる。誰でも色々な感情や欲望を持ち合わせているが、それが行動という形で発散されてしまう場合を、心理学や精神医学では「行動化」と呼んでいる。外からは、衝動的で未熟と評価され、時に危険でもある。
具体的な行動化としては、例えば、無断欠勤もそうだし、何の将来的な展望もないのに、いきなり「退職願い」を提出すような衝動的な転職も行動化である。また、アルコール依存や薬物依存(これらは精神医学的には物質依存としてまとめられることもある)も行動化の表現型の一つであるし、さらにそれが極端になったのが自殺である。
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