2008年1月20日日曜日

医療崩壊 No.1


■上記図版は 「医師数・看護師数の国際比較」 ⇒拡大●

昨年、医師たちの新しい団体である「全国医師連盟」が産声を上げた。
従来の医師会は、主に開業医の代弁者であったが、この全国医師連盟は、主に病院勤務医の代弁者になろうとしていると思われる。
そして、設立の目的の1つは、厚生労働省の「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案 : 第二次試案 」をもとにした自由民主党の「診療行為に係る死因究明制度等について」の制度化に対する反対にある。
詳しくは、「全国医師連盟」のホームページを読んでいただきたい。

ここでは、この連盟の執行部世話役である黒川衛氏に対するインタビューの一部を紹介する。
このインタビューは、[m3.com]という医療従事者限定のサイトに掲載されたものである。

【イントロ】
"医療崩壊"と称される現状は、医師不足や患者の医療不信などが引き金になっており、医師の勤務環境は厳しさを増している。その問題解決に向けて、勤務医を組織化する必要性が指摘されているが、その先陣を切っているのが、「全国医師連盟」だ。来年1月には東京で総決起集会を開き、来春の発足を目指す。同連盟の設立準備委員会の発起人世話役を務める黒川衛氏に、設立の狙いを聞いた。

「全国医師連盟」の立ち上げの背景をお教えください。

 連盟の立ち上げは、「自然の流れ」「必然」だと思っています。ここ数年、医療崩壊と言われるほど状況は深刻化していますが、従来はインターネットの掲示板やブログで、こうした問題が匿名で議論されてきました。しかし、医師全体の危機意識の水準が上がってきて、ようやく名前を公にして、活動しようという動きになってきたのだと思います。

 私は現在の状況は、「医療制度偽装」だと思っています。例えば、救急医療の場合、患者さんは、医師は交代勤務で待機しており、いつでも対応してくれると思っています。しかし、現実には、国の仕組みとして救急医療体制が整備されているのではなく、患者さんを助けたいという医師の初心と善意、体力に依存するという矛盾した状況で成り立っているわけです。だから「偽装」です。しかし、その「偽装」が明るみになってきたのが現在の状況です。

先生の医療に対する危機意識を、もう少し詳しくお聞きしたいのですが。

 私自身、長年、救急告示病院で土・日曜日に24時間当直勤務をこなしてきましたが、医療の進歩以上に、患者さんの要求が年々厳しくなっていることを実感しています。以前だったら、治らなくても仕方がないと思える事例でも、「これは治るでしょうね」となります。

 同級生などの状況を見ても、例えば産科で一人医長の場合、24時間365日の待機を強いられています。昔からの習慣で、当然なことだと思っている医師は少なくありませんが、これは実は非人間的なことで、実際に破綻しつつあります。また最近は、医療事故を起こした場合に犯罪視する傾向があり、医師は不安や懸念を抱きながら医療をやっています。

 しかし、現状では、医師一人ひとりが孤立しており、「たこつぼ」の中で一人で戦っているともいえます。このままでは、問題解決が進まず、現場で働く医師が“玉砕”する可能性も出ています。こうした状況を変えるための医師のネットワーク化、社会運動がわれわれの取り組みです。

「全国医師連盟」は、3つのプロジェクトに取り組むとお聞きしています

 はい。当面は、(1)医療労働環境の改善、(2)公正な医療報道と世論啓発、(3)医療紛争解決と医師の自浄作用、の3つに絞って取り組んでいきます。

 現在、われわれ医師は、患者さんに安全に医療を提供できる体制にありません。医師が個人で加盟する労働組合である「ドクターズ・ユニオン」を、全国医師連盟とは別個に作り、個別の労働紛争の解決に取り組みます。それと並行して、全国医師連盟は、患者さんや行政、世間一般に医師の労働環境改善に向けて働きかけていきます。プロ野球界でも、選手会と労働組合の2つがあるのと同じ関係です。

 また最近、様々な医療・健康情報が流れていますが、誤った情報で健康被害が生じることもあります。また医療事故についても、必ずしも的確に報道されているわけではありません。先手を打って啓発し、正しい知識を持ってもらうことが必要なので、メディアが気軽に聞ける窓口として、「医療事案相談サービス」を設置します。

 3点目ですが、現在の医療裁判では、専門委員制度が設けられていても、最高裁も指摘している通り、うまく活用できていません。医療裁判のほか、ADR(裁判外紛争処理機関)などにも、専門家集団として協力していきます。一方、医療事故の中には、犯罪に近い事例があるのも事実です。こうした事案に対しては、同業者として、自浄作用を発揮できるよう取り組みます。

全国医師連盟の成功のカギは何だとお考えですか。

 確かに、どこまで本気なのか、どこまでできるのかと言われることもあります。しかし、歴史の舞台には観客席はありません。医師の初心と誇り、それを生かせる社会にしたいと考えており、医師には少しでも関心を持ってもらいたいと思います。

 一方、こうした社会運動を成功させるためには、医師が被害者意識、権利意識だけを振りかざしても、うまくいきません。患者さんや国民などから支援をいただくことが必要だと考えています。

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