2008年3月17日月曜日
うつ病を見逃さないために
近年、本邦における自殺者数は年間3万人を超えており、その多くが、うつ病を病んでいたといわれている。
「うつは心の風邪」といわれているが、重症化すると、風邪のように簡単に治る病ではない。実際、私の周囲にも、数年にわたってうつ病で苦しんでいる人がいる。重症化しないためには、早期に的確な治療を開始することが重要だが、うつ病の早期には、自分も周りの人も、なかなか気がつかないことが多い。
そこで、Nikkei Medical ONLINEに載っていた「うつを見逃さない」という記事を紹介する。
このサイトは、医者向けの専門サイトだが、この記事は平易にうつ病の症状が解説されており、私たちにも十分参考となる内容である。しかし、医者の専門サイトで、誰でも読めるわけではないので、その全てを引用した。
著者は保坂隆氏=精神科医;東海大学医学部教授である。
なお、最近の研究で不眠が続くとかなりの確率でうつ病になることが分かってきた。従って、日中の生活に支障がでるような不眠の場合は、専門の、たとえば「不眠外来」などを受診する方がよい、といわれている。
■以下、全て引用記事ですが、【カッコ】内の記述は、私の注です■
ストレスを受けると、脳や身体各部に様々な影響が出てくる。しかし、これらの変化の多くは目に見えないため、周囲の人間には分からないし、自分自身も認知できていないことが少なくない。
そこで今回は、自分のストレス状態を自分自身が認知するために、またストレス状態にある職場の同僚に気付くことができるように、ストレスをいくつかの段階に分け、各段階で起こる「外側から見える」変化について説明していく。
(1)「過剰適応」段階;【むしろ元気な感じになる】
最も軽症のストレス状態では、すぐに元気がなくなるのではなく、むしろ元気な感じになる。
何かストレスがあっても、普通以上にきちんと適応できているかのように見える。この状態を「過剰適応」と呼ぶ。この時点では、本人はストレッサーに曝されていることに全く気付いていないことが多い。
過剰適応が問題なのは、本人が無理をして適応しているため、いつかは適応のためのエネルギーが枯渇して、ストレス状態が次の段階に進んでしまったり、身体的な病気(心身症)になったりする可能性が高いからである。
過剰適応は色々なきっかけで生ずるが、例えば、仕事を始めたばかりの研修医【新入社員】や、異動したり勤務地が変更になったばかりの医師【会社員】によく見られる。具体的には、新しい環境に早く慣れようとして、遅くまで仕事をしたり、ミーティングなどでも積極的に発言するなどの行動が観察される。
もっとも、この過剰適応は、真面目な医師が「新しい職場で頑張ろう」という気持ちが強いときに表れる行動パターンであり、適応のためには、むしろ必要な段階であるとも言える。
(2)「神経過敏」段階;【イライラして怒りっぽくなる。悪酔いしやすくなる】
過剰適応の段階を過ぎると、精神的に過敏になり、イライラしたり、怒りっぽくなったりする。
見た目にも疲れが見え始め、タバコの本数が増えたり、些細な刺激にも過敏に反応したりする。同僚と口論やけんかをしてしまったり、後輩をいじめたり、上司に対しても口答えするようになり、さらに悪くなると、看護師【家族】に当たり散らしたり、患者や患者家族【お客さん】とのトラブルに発展する場合もある。これが神経過敏の段階である。
神経過敏は、私生活にも影を落とす。自分の家族や恋人、友人とも、ちょっとしたことでけんかしてしまうことが多くなってくる。
この時期の、もう一つの客観的指標は「酒の飲み方」である。しばしば見受けるのは、酒を飲みながら職場や仕事について愚痴ってみたり、上司や同僚の悪口を言っている場面である。また、一緒に飲んでいる同僚や友人にからんだり、喧嘩をしてしまったりもすることもある。「最近、悪酔いしやすくなった」という人は要注意である。
(3)「無関心」段階;【周囲の人たちや仕事に対して無関心になる】
さらに悪化すると、いよいよ周囲に対して関心がなくなる段階に入っていく。
それまで一生懸命がんばってきたのとは正反対の状態で、仕事への積極性もなくなってしまう。さらに、積極性や生き生きした感じが失われるだけでなく、仕事中も「うわの空」のように見えるようになる。その結果、つまらぬミスをしてしまい、それが大きな医療ミスの原因になる場合もある。そのことについて、上司から注意されたり、叱られても、特別に罪悪感を感ずることもなくなってしまう。
しかし、無関心だからといっても、これは「抑うつ的」とは違う。抑うつ状態のように、悲しいわけでも、憂うつなわけでもなく、心身が消耗した感じで「何も感じない」状態なのである。
この無関心段階では、休憩時間や自宅に戻ってからも、何かを積極的にすることはない。その代わりに、雑誌やネットで「求人広告欄」をボンヤリ眺めていたりする。とはいえ、この段階の人は、現在の仕事をやめて新しい職場を積極的に探しているわけでない。そんなエネルギーは、もうこの段階ではなくなっているのである。
「ただ、なんとなく」というのが、この段階には一番ピッタリくる表現である。
(4)「引きこもり」段階;【遅刻が多くなる】
無関心段階を過ぎると、さらに周囲との接触を避けるようになる。
具体的には、遅刻が多くなってくる。また、「神経過敏」の段階のように、外で同僚や友人と酒を飲んでウサ晴らしをするわけではなく、家で独りで飲酒するようになり、その結果、二日酔いの状態で出勤することも少なくない。医師の6人に1人はアルコール性肝障害と言われるが、このような段階に達している医師が多いのかもしれない。
(5)「抑うつ」段階;【集中力がなくなり、忘れっぽくなる】
引きこもりを超えると、次は「抑うつ」段階である。この段階では、憂うつ、寂しい、悲しい、つまらない、といった抑うつ気分を本人もはっきりと自覚し、言葉にすることもできる。また「集中力がない」とか「頭が働かない」というような精神機能の低下や、「忘れっぽくなった」という知的機能の低下も見られるようになってくる。
さらに「何も手につかない」とか「何をするのもおっくうだ」といった具合に、運動性の抑制も見られるようになる。これらの症状が、朝や午前中に特にひどいという、「日内変動」【午前中、特にひどくて、夕方になると少し元気になる】も見られることがある。このように、この時期には、いわゆる「うつ病」の患者と全く同じ症状が認められるようになる。
この「抑うつ」段階も、精神症状を自覚できれば、評価や診断はそれほど難しいことではないが、精神症状がほとんどないこともある。例えば、不眠、食欲不振、体重減少といった身体症状だけしか認められない場合である。身体症状は、頭重感、頭痛、肩凝り、腰痛といった症状のこともあるし、下痢や便秘ということもある。このように、抑うつ感がないか、あってもごく軽度で、その代わりに身体症状だけが目立つうつ病を「仮面うつ病」という。
(6)「行動化」段階;【無断欠席、衝動的な退職・転職】
この「抑うつ」段階が続くと、最終的には様々な「行動化」が見られるようになる。誰でも色々な感情や欲望を持ち合わせているが、それが行動という形で発散されてしまう場合を、心理学や精神医学では「行動化」と呼んでいる。外からは、衝動的で未熟と評価され、時に危険でもある。
具体的な行動化としては、例えば、無断欠勤もそうだし、何の将来的な展望もないのに、いきなり「退職願い」を提出すような衝動的な転職も行動化である。また、アルコール依存や薬物依存(これらは精神医学的には物質依存としてまとめられることもある)も行動化の表現型の一つであるし、さらにそれが極端になったのが自殺である。
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2 件のコメント:
うつ病早期対処の一番の壁になるのが、周囲の無理解とよく言われますね。「暗い」「やる気がない」「根性がない」と性格を批判されかねないのがまだまだ現状でしょう。「戦争中にそんなやらはいなかった。」なんて凄いことを言うお年寄りもいます。戦争中にも、うつ病の人たちはいたはずなのです。
同じような意味で自閉症の子を持つ親たちもまだまだつらい立場に立たされることが多いようです。世の中に「自閉症は脳の病気」という理解がないために、「親の育て方」とか「その子の性格」を批判されたりすることが多いそうです。
よく、抑欝状態の人には「がんばれ」というのは禁句といわれていますが、症状によっては、少し背中を押した方が良い場合もあるそうです。また、少し良くなると薬に服用を勝手にやめてしまって、さらに悪化する人もいるようです。どちらにしても、風邪のように簡単な病気ではないと思います。
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